【冒頭発言】
先月、福島で開催した太平洋・島サミット。ツバルのソポアンガ首相は、巨大サイクロン「パム」に襲われた時の恐怖を、こう表現しました。「私たちの島が、沈んでしまう。」地球の温暖化は、海面を上昇させ、南太平洋に浮かぶ美しい島を、消滅の危機にさらしています。首相は、更にこう訴えました。「もう時間がない。島に住む人々を、どうか、救ってほしい。」
日本は、東日本大震災と原発事故を乗り越え、温室効果ガスについて、野心的な削減目標を掲げました。しかし、地球規模で進む気候変動に対処するためには、「全ての国が参加する」新たな枠組みを作りあげることが不可欠であります。
今回のG7サミットでは、世界のリーダーたちと、その確固たる方針を確認しました。世界をリードする国々が年に一度集まり、世界が直面する課題について共に議論し、共に立ち向かう。G7サミットは、40年の長きにわたりその時々の課題に協調して取り組む場となり、世界の平和と繁栄に貢献してきました。
テロや感染症の脅威、女性の人権。今年のサミットでも、こうした新たな課題に、世界が手を携えて取り組んでいく。その強い意志を共有することができました。議長を務められた、ドイツのメルケル首相のリーダーシップに、心からの敬意を表する次第であります。
私たちには、共通の「言葉」があります。自由、民主主義、基本的人権、そして法の支配。基本的な価値を共有していることが、私たちが結束する基礎となっています。だからこそ、G7は連帯して、ウクライナの安定を支持する。この方針は、揺るぎないものであります。今回のサミットに先立ち、私は、日本の総理大臣として初めて、ウクライナを訪問しました。ウクライナ国内の改革を加速するため、日本は、これからも、あらゆる可能な協力を惜しまない。そのことをポロシェンコ大統領に申し上げました。
改革を進め、持続的な成長を実現するためには、何よりも平和と安定が必要です。力によって、一方的に、現状が変更される。強い者が、弱い者を、振り回す。これは、ヨーロッパでも、アジアでも、世界のどこであろうと、認めることはできません。法の支配、主権、領土の一体性を重視する日本の立場は、明確であり、一貫しています。
ロシアやウクライナを含む、全ての当事者が、停戦合意を誠実に履行すべきであります。「いかなる紛争も、力の行使や威嚇ではなく、国際法に基づいて、平和的に解決すべきである。」こうした原則を、私は、国際社会において、繰り返し訴えてまいりました。今回のサミットでも、G7の友人たちから、強い支持を得ることができました。
そして、そうした平和的・外交的な解決は、「対話」なくしては、あり得ません。対立は、対話をやめる理由にはなりません。むしろ、課題があるからこそ、対話をすべきであります。
これがG7ではなくG8であったならば、この場に、プーチン大統領がいるはずでありました。冷戦終結後、私たちは、ロシアを受け入れ、「G8」として、世界的な課題に取り組んできた実績があります。
ロシアには、責任ある国家として、国際社会の様々な課題に建設的に関与してもらいたい。そのためは、私は、プーチン大統領との対話を、これからも続けていく考えであります。
来年は、いよいよ、日本が議長国となり、伊勢志摩に、世界のリーダーたちをお招きすることとなります。
眼下に広がる志摩の豊かな海は、太平洋から、インド洋にまでつながっています。アジアやアフリカのたくさんの国々の思いを胸に、日本は、議長国として、世界の平和と繁栄のため、世界のリーダーたちと率直に話し合いたいと思います。
さらに、せっかくの機会でもありますので、伊勢神宮を始め、日本の伝統や文化、美しい自然を、存分に味わっていただきたい。日本の「ふるさと」の素晴らしさを、世界に発信する機会にしてまいりたいと考えています。
私からは、以上であります。
http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/statement/2015/0608naigai.html