ごく、まともな意見。日本のマスコミはひでえよな~
通常国会が28日に召集され、安倍政権の政策を巡る論戦が始まった。発足から1カ月、日本銀行にインフレ目標導入をのませるなど、独自カラーを鮮明にする安倍晋三首相は、これまで歴史認識などでタカ派色も見せてきた。そんな安倍政権を米国はどう見ているのだろう。米国の社会と政治を観察し続ける作家、冷泉彰彦さんに聞いた。
――米政府は、安倍政権をどう見ているのでしょうか。
「安倍政権に対して米政権が感じているのは『わかりにくさ』だと思います。右傾化への懸念といった単純なものではありません。過去、日米関係がたいへん親密だったのはレーガン政権時代の中曽根康弘首相、ブッシュ政権時代の小泉純一郎首相でしたが、彼らも右派と見なされていた。両首相は日米の軍事同盟的な性格を強く打ち出しましたが、良好な関係を築くことができたのはそれだけが理由ではない。日米両政権が価値観を共有していたからです」
「特に経済政策について、それは言えます。中曽根政権は行政改革と国営企業の民営化を実行しましたが、それは双子の赤字に苦しむ米国が目指す方向性、共和党の小さな政府路線とぴったり重なった。小泉政権は規制緩和を進めましたが、これも米国政財界から見て合理的で納得できた。トップ同士の個人的な親密さの背景にあったのは、経済政策のわかりやすさであり、価値観の共有だったのです」
「安倍さんはその点が一番心配です。歴史認識では右派的な主張をするのに、左派的な経済政策を採る。お札をじゃんじゃん刷って、なおかつ財政出動をしてばらまくというのは、米国では左派政権的です。これは非常にわかりにくい。オバマ政権も金融緩和をしていますが、問題点もよくわかっており、徐々に軌道修正しようとしているようです」
「日本は過去20年、さんざん財政出動したのに一向に競争力が上向かない。生産性向上のためではなく、一過性の金の使い方をしている。たいへんな債務を背負っているのに通貨価値を下落させるのは非常に危険な行為だという考え方もあります。中道右派や現実派とされる米国人には危うい政策に見えるでしょう」
――右派的な主張の一方で、左派的な経済政策をすることに戸惑っているということですか。
「というより安倍政権そのものに危惧があるのだと思います。円安に振って、ばらまきもするギャンブルに走っている。米国政財界としては納得しにくいでしょう。参院選で勝つまで(政策が)もてばいい、あとは野となれ山となれと考えているのではないか、という懐疑がある」
「その懸念が強い上に、さらに従軍慰安婦問題や靖国神社参拝などの歴史認識を巡って日米に深い認識のギャップがあります。米国では、若い人から高齢者まで、戦前の日本と戦後の日本はまったく違う国だと思っている。昭和天皇も戦前と戦後、人間宣言をして平和国家建設に尽力した後とではまったく評価が異なります。歴代米大統領は訪日時の天皇主催の宮中晩餐(ばんさん)会を楽しみにしており、オバマ大統領も訪日時に天皇陛下にお辞儀をしたことが話題になりましたが、それも戦前の日本と今の日本は違うという理解があるからです。それなのに戦前の日本の行為について、戦後の現職首相が『名誉回復』しようとしている。米国人はまったく理解できないでしょう。靖国神社参拝についても、同様に理解できないと思います」
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――ドイツは戦後、意図的に戦前のナチスと戦後ドイツを別のものとして切り分けました。なぜ、日本は違うのでしょうか。
「日本の右派は、国体、つまり国の成り立ちは一貫していると考えたいわけですね。戦後の改革を否定して、戦前からの一貫性というファンタジーをどうしても持ちたい。一方で左派も、戦後の日本のあり方、つまり象徴天皇制や自衛隊への批判を続けることで、右派の裏返しとして戦前との一貫性を前提にしてきた。この感覚は米国人には分からない」
「共和党政権下の知日派の人たちに本音を聞いたことがあります。日本の右派政治家とどうして付き合っているのかと。『本当は理解できないが、ほかにいないから仕方がない』という答えでした。これは不幸なことです。文化や歴史として戦前と戦後の連続性があるのは確かであり、国としてのアイデンティティーは連続していると私も思います。しかし、天皇の人間宣言や新憲法の制定、サンフランシスコ講和会議による独立回復を世論と政府は追認してきたのですから、統治のあり方、つまり国体は修正され、変化したのだというのが私の考えです」
――従軍慰安婦問題では、米下院で謝罪を求める決議もされました。
「ここにも日米間で大きな認識ギャップがあります。安倍首相が『慰安婦の強制連行はなかった』と仮に訂正したとしても日本の名誉回復にはならず、逆に国益を損なう恐れがある。現在の米国的な人権感覚からすれば『本人の意に反し、借金を背負って売春業者に身売りされ、業者の財産権保護の立場から身柄を事実上拘束されている女性』というのは『人身売買』であり『性奴隷』だと見なされます。映画『レ・ミゼラブル』では、ファンティーヌという女性がシングルマザーとして経済的な苦境から売春婦になる設定がありますが、『強制連行はなかった』から問題はないという主張は、彼女の痛苦を否定するのと同じで、セカンドレイプに近い行為と見なされかねない。日本は現在形で『女性の人権に無自覚な国』だと思われます。意見広告を出す動きもありますが、これも米国市民には理解されないでしょう。極論すれば、イスラム教の原理主義者が女性に教育を施すなと言っているのと同じくらいわからない」
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――オバマ政権は今後、安倍政権に対して、どう接するでしょうか。
「米国務省には、日本語の文献を原文で読んで理解する担当者もいます。メディアの論調からネット右翼まで日本の空気感をすべて上に報告している。オバマ大統領もルース駐日大使も日本に対する関心は高く、生の情報を吸い上げた上で、歴史認識問題では日本が孤立しかねないと心配している節もある。悪く言えば圧力、よく言えば親身なアドバイスをしてくるのではないでしょうか。オバマ氏は決して聖人君子ではなく、外交は手段であり闘いであるというマキャベリスト的な政治家ですから、場合によっては安倍首相の歴史認識を攻撃材料として利用することもあり得ます」
「女性の人権についての感覚を例に挙げましたが、それだけでなく、米国の価値観というよりは国際社会の共通ルールとでもいうべきものが存在します。明治維新以降の日本では、東洋の道徳と西洋の技術をもって文明開化をする『和魂洋才』だと言っていた。その感覚は今も続いており、日本の政財界のトップ層には、アングロサクソンの道徳観には屈したくないという悪い意味での反骨心があるようです。中国は今は共通ルールを守っていないように見えますが、国際的な価値観の共有という点で先を越されたら、日本は孤立してしまいます。国内では内向きに右翼的なことを言うが、米国では口をつぐむというような、内と外の顔を変えるようなことは、首相にはやめていただきたいと思います」
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――一方で、前回政権時に中国との関係を改善したように、安倍首相に期待する声もあります。
「タカ派の右派政権の方が取り得る外交政策の幅が広くなる、というパラドックスは確かにあります。国際政治においては譲歩しなければならないこともよくありますが、左派や穏健派政権の場合、ナショナリズム的世論による弱腰批判を気にして譲歩しづらくなり、判断がぶれやすい。逆に右派というお墨付きを持つ政権は、譲歩は実利を取るためだという主張が理解されやすく、うまく国際協調できてしまう。そういう意味で米国も中国も期待しているところはあるでしょう」
「ですが、ここにも落とし穴がある。世論や議会と本当の意味での合意形成ができていないと、理念と現実のギャップが激しくなったときに判断ができなくなる、または大きく跳ね上がるといったことになりかねない。産業構造上、日本は決して孤立できない国です。米国だろうが中国だろうがイスラム圏だろうが、それこそアルジェリアでも、全世界全方位外交、経済中心の国際協調で生きていかないといけない。それには、どんな外交をしていけばいいのか、本当に国益に資するにはどうしたらいいのか、国内でもっと多様な議論をすることを安倍政権には求めたいのです」
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れいぜいあきひこ 59年生まれ。東大卒、米コロンビア大学院修了。93年に渡米し、現在、ニュージャージー州プリンストンの日本語学校高等部主任も務める。
<取材を終えて>
戦争に負けた相手国で、戦後は最大の同盟国。日本にとって切りたくても切れない関係の米国だが、こちらに駐在していると、考え方の根の部分で違いを感じることも多い。この超大国とうまく付き合い、理解し合うことは、日本の首相にとって必修科目だろう。さて、安倍首相は、オバマ大統領と愛称で呼び合う関係になれるだろうか。(真鍋弘樹)
http://digital.asahi.com/articles/TKY201301280573.html?ref=comkiji_txt_end_s_kjid_TKY201301280573
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