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2013年8月28日水曜日

天声人語

キング牧師「I Have a Dream」



天声人語

 自由と民主主義の国と仰がれるアメリカの、恥部といえるのが人種差別である。遠い昔の話ではない。1960年代になっても白人と黒人を厳しく隔てる差別が南部にあった。通う学校から飲食店、水飲み場、バスの座席もベンチも二分され、結婚も禁じられていた▼「神が黒人を罰するために、白人とは違う姿にお造りになった」と言う州知事さえいた。そうした抑圧の時代、雲間から差す光のように降りてきた言葉が「私には夢がある……」だった。キング牧師の歴史的な演説から、今日で50年になる▼「私には夢がある。いつの日か、あのジョージアの赤い丘の上で、かつての奴隷の息子と、かつての奴隷所有者の息子とが同じテーブルに座れる日の来ることを……」。言葉の力と輝きを、ここまで高めた演説はまれだ▼黒人が対等の権利を求める公民権運動に、保守的な白人は憎悪を露(あら)わにした。南部アラバマ州にある記念碑には運動に関連して殺された人々の名が刻まれている。のちに凶弾に倒れたキング牧師の名もある▼時は流れて「夢」は今なお道半ばだ。法や制度は勝ち取ったが、有形無形の差別は残る。皮肉なことに、法的平等ゆえに、貧しさを個々の黒人の責任に帰する不寛容を、アメリカ社会は強めてきたように思われる▼「私には夢がある」は誰に限らず、苦境にある者の松明(たいまつ)となって燃え続けるだろう。演説原稿にはなかった即興として口からほとばしり出たそうだ。思えば現代史上の、大いなる遺産である。

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