――哲学的ですね?
「いまのコンピューターサイエンスは、もう哲学と隣り合わせです。NASAとグーグルが行う量子コンピューターによる人工知能の研究は、ギリシャ以来の哲学が考えてきた『私とは何か?』『存在するというのはどういうことか?』といった形而上(けいじじょう)学的な問いを自然科学的に回答するかもしれないというところまできているんですよ」(終わり)
TERMINATORじゃん・・・
――それって、つまりアンドロイドの開発ですか。
「グーグルグラスがやがてグーグルコンタクトレンズになって、ついにはグーグル目玉になっていくかもしれません。すでに盲目の人に、電荷結合素子(CCD)カメラと人工網膜を仕込んで、視覚を感知する脳細胞に電気信号を送りこむところまで来ています。白黒の輪郭の画像までは盲目の人にも見せることができる」
■人間の監督なしで
「さて、そうやってかなり大きなニューラルネットを構築し、そこに膨大なユーチューブの画像を無作為にずっと流していったのです。そうするとニューラルネットを備えたコンピューターがネコの動画を見て『これはネコです』と言った、というのです」
――人工知能の誕生でしょうか?
「ニューラルネットには2種類あって、ひとつは『スーパーバイズド(supervised)』というんですね。こちらは、人間の監督のもと学習していく。もうひとつが『アンスーパーバイズド(unsupervised)』というのですが、人間の監督指導がなくても機械が学習していくものです。グーグルの構築したニューラルネットはアンスーパーバイズドで、機械学習によって『これはネコですよ』と言った。そういう論文をグーグルが発表した。そして昨年8月には動画から物体を認識するという特許を申請したのです」
――なんだかSF小説やSF映画のような世界ですね。
「そうですよ。これを米国は国家戦略としてやっているのです。米国防高等研究計画局(DARPA)は、旧ソ連からの核攻撃を受けた際に通信網をどう維持するかということで、アーパネット(ARPAnet)というのをつくって、これがインターネットの基礎となりましたよね。それと同時に戦闘ロボットを開発するために、ずっと人工知能の研究をやっているのですね」
「すでにDARPAの資金支援で開発されたロボット『ビッグドッグ』が公開されています。ユーチューブの画像で見ればわかりますよ。4本足で動くイヌというか、ウシのようなロボットです。ついに、ここまできたのか、これはすごいや、というのがわかる。さらに最近『アトラス』という人型ロボットも発表しました。いよいよ映画『ターミネーター』の世界がやって来そう、ということですね」
「DARPAは年間2500万ドルをビッグデータに投じるというので、それはたぶん人工知能かな、と私は推測しています。それにホワイトハウスが2012年3月、ビッグデータの研究開発に2億ドルを投じると発表しています。ビッグデータの最新技術の研究開発をするというと、これも私は人工知能しかないな、と思っています」
■量子コンピューターも登場
「それを裏付けるようなことが最近あって、グーグルとアメリカ航空宇宙局(NASA)が共同でクォンタム・アーティフィシャル・インテリジェンス・ラボを創設すると発表した。アーティフィシャル・インテリジェンスというのは人工知能のことですよね。そしてもう一つ、クォンタムとは『量子』のこと。いよいよ量子コンピューターかよ、と。人工知能の計算にはグーグルの巨大なデータセンター群でも足らないので、いままでのノイマン型コンピューターとはまったく別の構造の新しいコンピューターが必要ということになって、量子コンピューターの登場となったのです。しかもグーグルとNASAが創設するラボでは、カナダのDWAVE社の初の商用量子コンピューターを使うことも発表しています」
――米国は官民連携でそこまでいっているのですか。
「人工知能の権威でもある発明家のレイ・カーツワイルが昨年12月、65歳でグーグルに入社したんです。彼は『永遠に生きよう』と言っている人物です。まずは、身体の傷んだ器官は取り換えてサイボーグ化しようというようなことを言っています。レイ・カーツワイルがグーグルに入ったということは、グーグルがいったい何をやろうとしているかが、おぼろげながらわかってくる」
――それって、つまりアンドロイドの開発ですか。
「グーグルグラスがやがてグーグルコンタクトレンズになって、ついにはグーグル目玉になっていくかもしれません。すでに盲目の人に、電荷結合素子(CCD)カメラと人工網膜を仕込んで、視覚を感知する脳細胞に電気信号を送りこむところまで来ています。白黒の輪郭の画像までは盲目の人にも見せることができる」
「そうやって器官を機械で置き換えていくと、最も置き換えが難しそうなのが脳みそ。グーグルは膨大な計算ができる量子コンピューターの上になにがしかの『意識体』を構築すること、あるいは『意識体の入れ物』を創ろうとしているのではないですかね。カーツワイルはその『入れ物』に自分自身の意識体を転移することによって、『永遠に生きよう』と考えているのではないでしょうか」
――そういうビッグデータ2.0で人工知能が使われるようになるといったい何が起きるのですか?
「たぶん、私たちが自分でも気づいていないものを気づかせてくれるということですね。しかし、そこから先は『わからない』のです」
「IOTのアプリケーションが『わかりません』というのと同じように、ビッグデータ2.0で人工知能と量子コンピューターが使われるようになって、そこで何が生まれるのはわからない」
――『1984年』(キーワード参照)を書いたジョージ・オーウェル的な世界ではないですか? ビッグブラザーに監視されるようなことにはなりませんか。つい先日もCIA(米中央情報局)職員のスノーデン氏が米政府の情報収集活動を暴露しました。
「うーん。たぶんプライバシーは、コンピューターという無人格なものが見ているのだからプライバシーが盗み見されているのではない。だから気にする必要はない。その気味の悪さの見返りとして、普通の人間が電子的な執事を持てる時代がきたということです。デジタルアシスタントです」
「原始仏教徒の私からすると『私』というのはそもそもないんですよ。『私』というのは自分が何をしてきたかという記憶の集積、エピソードの集積なんです。進化の発展の課程で『私』という『幻影』が誕生した」
――哲学的ですね?
「いまのコンピューターサイエンスは、もう哲学と隣り合わせです。NASAとグーグルが行う量子コンピューターによる人工知能の研究は、ギリシャ以来の哲学が考えてきた『私とは何か?』『存在するというのはどういうことか?』といった形而上(けいじじょう)学的な問いを自然科学的に回答するかもしれないというところまできているんですよ」(終わり)
◇
〈村上 憲郎(むらかみ・のりお)〉 1947年、大分県出身。京大工学部卒。日立電子、デジタルイクイップメント(DEC)などを経て2003年、グーグルの日本法人の社長として入社し、09年1月名誉会長、11年1月退任。現在は村上憲郎事務所代表、慶応大大学院特別招聘教授など。著書に『一生食べられる生き方』『村上式シンプル仕事術』など。
◇
〈人工知能〉コンピューターに人間の頭脳と同様に自ら考えることができるような機能をもたせること。日本では旧通商産業省が1982年、人工知能開発をめざした「第5世代コンピューター」の研究に国家プロジェクトとして取り組んだが、日の目をみなかった。近年米軍の無人戦闘機や自走ロボットの開発などによって、従来SFの作品で語られていたことが次第に現実味を帯び始めている。
◇
〈「1984年」〉イギリスの作家ジョージ・オーウェルの近未来小説。「ビッグ・ブラザー」と呼ばれる独裁者に思想や言動を統制され、「テレスクリーン」によって市民生活が監視される暗黒社会が描かれている。ファシズムや共産主義など全体主義批判の書としても読まれた。米政府がメールなどの監視をしていたことが明らかになり、今年に入って米国で売り上げが急伸している。
◇
IT界の大御所3人に聞くインタビューはこれで終わりです。
「いまのコンピューターサイエンスは、もう哲学と隣り合わせです。NASAとグーグルが行う量子コンピューターによる人工知能の研究は、ギリシャ以来の哲学が考えてきた『私とは何か?』『存在するというのはどういうことか?』といった形而上(けいじじょう)学的な問いを自然科学的に回答するかもしれないというところまできているんですよ」(終わり)
TERMINATORじゃん・・・
――それって、つまりアンドロイドの開発ですか。
「グーグルグラスがやがてグーグルコンタクトレンズになって、ついにはグーグル目玉になっていくかもしれません。すでに盲目の人に、電荷結合素子(CCD)カメラと人工網膜を仕込んで、視覚を感知する脳細胞に電気信号を送りこむところまで来ています。白黒の輪郭の画像までは盲目の人にも見せることができる」
■人間の監督なしで
「さて、そうやってかなり大きなニューラルネットを構築し、そこに膨大なユーチューブの画像を無作為にずっと流していったのです。そうするとニューラルネットを備えたコンピューターがネコの動画を見て『これはネコです』と言った、というのです」
――人工知能の誕生でしょうか?
「ニューラルネットには2種類あって、ひとつは『スーパーバイズド(supervised)』というんですね。こちらは、人間の監督のもと学習していく。もうひとつが『アンスーパーバイズド(unsupervised)』というのですが、人間の監督指導がなくても機械が学習していくものです。グーグルの構築したニューラルネットはアンスーパーバイズドで、機械学習によって『これはネコですよ』と言った。そういう論文をグーグルが発表した。そして昨年8月には動画から物体を認識するという特許を申請したのです」
――なんだかSF小説やSF映画のような世界ですね。
「そうですよ。これを米国は国家戦略としてやっているのです。米国防高等研究計画局(DARPA)は、旧ソ連からの核攻撃を受けた際に通信網をどう維持するかということで、アーパネット(ARPAnet)というのをつくって、これがインターネットの基礎となりましたよね。それと同時に戦闘ロボットを開発するために、ずっと人工知能の研究をやっているのですね」
「すでにDARPAの資金支援で開発されたロボット『ビッグドッグ』が公開されています。ユーチューブの画像で見ればわかりますよ。4本足で動くイヌというか、ウシのようなロボットです。ついに、ここまできたのか、これはすごいや、というのがわかる。さらに最近『アトラス』という人型ロボットも発表しました。いよいよ映画『ターミネーター』の世界がやって来そう、ということですね」
「DARPAは年間2500万ドルをビッグデータに投じるというので、それはたぶん人工知能かな、と私は推測しています。それにホワイトハウスが2012年3月、ビッグデータの研究開発に2億ドルを投じると発表しています。ビッグデータの最新技術の研究開発をするというと、これも私は人工知能しかないな、と思っています」
■量子コンピューターも登場
「それを裏付けるようなことが最近あって、グーグルとアメリカ航空宇宙局(NASA)が共同でクォンタム・アーティフィシャル・インテリジェンス・ラボを創設すると発表した。アーティフィシャル・インテリジェンスというのは人工知能のことですよね。そしてもう一つ、クォンタムとは『量子』のこと。いよいよ量子コンピューターかよ、と。人工知能の計算にはグーグルの巨大なデータセンター群でも足らないので、いままでのノイマン型コンピューターとはまったく別の構造の新しいコンピューターが必要ということになって、量子コンピューターの登場となったのです。しかもグーグルとNASAが創設するラボでは、カナダのDWAVE社の初の商用量子コンピューターを使うことも発表しています」
――米国は官民連携でそこまでいっているのですか。
「人工知能の権威でもある発明家のレイ・カーツワイルが昨年12月、65歳でグーグルに入社したんです。彼は『永遠に生きよう』と言っている人物です。まずは、身体の傷んだ器官は取り換えてサイボーグ化しようというようなことを言っています。レイ・カーツワイルがグーグルに入ったということは、グーグルがいったい何をやろうとしているかが、おぼろげながらわかってくる」
――それって、つまりアンドロイドの開発ですか。
「グーグルグラスがやがてグーグルコンタクトレンズになって、ついにはグーグル目玉になっていくかもしれません。すでに盲目の人に、電荷結合素子(CCD)カメラと人工網膜を仕込んで、視覚を感知する脳細胞に電気信号を送りこむところまで来ています。白黒の輪郭の画像までは盲目の人にも見せることができる」
「そうやって器官を機械で置き換えていくと、最も置き換えが難しそうなのが脳みそ。グーグルは膨大な計算ができる量子コンピューターの上になにがしかの『意識体』を構築すること、あるいは『意識体の入れ物』を創ろうとしているのではないですかね。カーツワイルはその『入れ物』に自分自身の意識体を転移することによって、『永遠に生きよう』と考えているのではないでしょうか」
――そういうビッグデータ2.0で人工知能が使われるようになるといったい何が起きるのですか?
「たぶん、私たちが自分でも気づいていないものを気づかせてくれるということですね。しかし、そこから先は『わからない』のです」
「IOTのアプリケーションが『わかりません』というのと同じように、ビッグデータ2.0で人工知能と量子コンピューターが使われるようになって、そこで何が生まれるのはわからない」
――『1984年』(キーワード参照)を書いたジョージ・オーウェル的な世界ではないですか? ビッグブラザーに監視されるようなことにはなりませんか。つい先日もCIA(米中央情報局)職員のスノーデン氏が米政府の情報収集活動を暴露しました。
「うーん。たぶんプライバシーは、コンピューターという無人格なものが見ているのだからプライバシーが盗み見されているのではない。だから気にする必要はない。その気味の悪さの見返りとして、普通の人間が電子的な執事を持てる時代がきたということです。デジタルアシスタントです」
「原始仏教徒の私からすると『私』というのはそもそもないんですよ。『私』というのは自分が何をしてきたかという記憶の集積、エピソードの集積なんです。進化の発展の課程で『私』という『幻影』が誕生した」
――哲学的ですね?
「いまのコンピューターサイエンスは、もう哲学と隣り合わせです。NASAとグーグルが行う量子コンピューターによる人工知能の研究は、ギリシャ以来の哲学が考えてきた『私とは何か?』『存在するというのはどういうことか?』といった形而上(けいじじょう)学的な問いを自然科学的に回答するかもしれないというところまできているんですよ」(終わり)
◇
〈村上 憲郎(むらかみ・のりお)〉 1947年、大分県出身。京大工学部卒。日立電子、デジタルイクイップメント(DEC)などを経て2003年、グーグルの日本法人の社長として入社し、09年1月名誉会長、11年1月退任。現在は村上憲郎事務所代表、慶応大大学院特別招聘教授など。著書に『一生食べられる生き方』『村上式シンプル仕事術』など。
◇
〈人工知能〉コンピューターに人間の頭脳と同様に自ら考えることができるような機能をもたせること。日本では旧通商産業省が1982年、人工知能開発をめざした「第5世代コンピューター」の研究に国家プロジェクトとして取り組んだが、日の目をみなかった。近年米軍の無人戦闘機や自走ロボットの開発などによって、従来SFの作品で語られていたことが次第に現実味を帯び始めている。
◇
〈「1984年」〉イギリスの作家ジョージ・オーウェルの近未来小説。「ビッグ・ブラザー」と呼ばれる独裁者に思想や言動を統制され、「テレスクリーン」によって市民生活が監視される暗黒社会が描かれている。ファシズムや共産主義など全体主義批判の書としても読まれた。米政府がメールなどの監視をしていたことが明らかになり、今年に入って米国で売り上げが急伸している。
◇
IT界の大御所3人に聞くインタビューはこれで終わりです。
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